ようやく最大の目的である
オカピを撮影する日がやってきました。
ムグティ族の森から帰った夜に、
私たちロケ隊と研究所スタッフで
撮影方法について話し合いました。
研究所スタッフがオカピの行動範囲を記した
地図を持ってきてくれました。
彼らは広大な森を大きく囲うように柵を設置し、
オカピが外に逃げないようにしていました。
そして近くで観察できるようにと、
森の中にせまい広場をつくっていたのです。
そこにはオカピのエサをおくための
仕掛けがありました。
話し合いの結果、
まずは、このエサを置くシーンから
撮ることを決めました。
オカピは毎日43種類も
木の葉を食べるのですが、
仕掛けに置くエサは現地スタッフの飼育係が
毎朝森へ向かい、
枝ごと採ってきているとのこと。
そしてオカピが食べやすいように
日本で稲を干す“はざかけ”のようなものに
かけておくのです。
この毎朝のルーティンと木の葉43種類すべてを記録してから
オカピがやってくるのを待とう
ということになりました。
しかしロケ隊全員で近くで待っていては
警戒心の強いオカピは近付きさえしないので
「カメラマンと竹田津さんだけ残し、
他のスタッフはオカピに気付かれないように
離れる」
という計画にしました。
オカピの感覚は非常に敏感で広いことを
森で体験した後なので、
数々の野生動物を観察してきた竹田津さんも
「かこいの中にいても野生と一緒だからね。
出てきてくれると良いんだけどねー。」
と少し不安げな表情でした。
当日は、朝食を早くすませて
現場へ向かいました。
最初に見えてきた“かこい”は
一部分が金網になっていて高さ2メートルほど。
その先は波板トタンの塀が森の中へ続いていて、
飼育係が出入りしたり、
研究者が観察するところは、
自然木の荒い柵になっていました。
予定通り飼育係が餌をはざへ掛けるシーンを
撮影し、
研究員へのインタビューも記録できました。
そして、いよいよエサを食べにやってくる
オカピの撮影です。
飼育係のアドバイスを参考に、
竹田津さんと小原カメラマンの立ち位置を決め、
他のメンバーはそこから100メートル以上遠くに離れた場所で待機します。
待機場所から双眼鏡を覗いてみると、
竹田津さんとカメラマンは
自然に馴染んだ空気をまといながら
オカピが来るのをじっと待ち構えていました。
”これなら、きっとオカピも認めてくれる!”
と祈る気持ちで見ていました。
待機メンバーも一言も発することなく、
シンとした空気が続きました。
そろそろ、1時間を過ぎた頃。
竹田津さんがスーッと動きました。
カメラマンもそれに合わせてカメラを動かし
ファインダーを覗いています。
静かに双眼鏡で確認してみると
竹田津さんの向こうにオカピの姿が見えました。
”よかった!”
私は、しゃがみ込んで、
二人の邪魔をしないように
顔を伏せて隠れていました。
それから約2時間後。
コーデイネーターが指をさすので
その先を見ると、
二人がカメラをかかえて
こちらに向かってきます。
その足取りは軽く、
顔は嬉しさに溢れた笑顔でした。
早速、宿舎に戻りビデオ素材を確認しました。
20分テープ3本分の約1時間、
研究所のメンバーも加えて、
小さなモニターを全員で覗き込みました。
太い木の向こうから顔だけを出し
こちらの様子を伺うように見る一頭のオカピ。
竹田津さんの方をしばらく見てから全身を出し、
ゆっくりと近づいてきます。
何かを確かめたと思ったら、
少し駆け足で離れて、
今度は小原カメラマンの方へ向き、
スタスタとした足取りで
正面まで近付いてきました。
その後はせまい広場をぐるりと一周してから、
はざに掛かっているエサを自分のペースで食べ、
ゆったりと森の中へ戻っていきました。
オカピの特徴である
前足と後ろ足の二つに割れた爪や
引き締まった筋肉付き具合も
丁寧に撮影されており、
映写中には研究者から
何度も感嘆の声が上がりました。
オカピの動く姿は実に、
”優美!”で”美しい!”もので
あの時の感動は今でも覚えています。
「近くで、生で、観たかったなー」と
私が言うと
竹田津さんが
「ほんとに綺麗としか言えない。
神様が創ったとしか思えない」
と誰に言うともなくつぶやきました。
オカピにたどり着くまでの道中、
実に様々なことがあってようやく
「初撮影・ザイールの森に珍獣オカピを見た!」は
1989年夏休みの「野生の王国」で
オンエアーすることが出来ました。
オカピが森の木の向こうから、
初めて顔を出してこちらを伺う姿と、
警戒を解いても考えながらこちらへむかってくる全身写真二枚、
計三枚の写真を
ホームページにアップしておきます。