今回は、和菓子職人さんでのお話です。
家から歩いて3分ほどのところに
地元では有名な和菓子屋さんがありました。
テレビや雑誌などでも
何度か取り上げられたこともあり、
我が家の子どもたちも小さい頃から食べている
馴染みのお店です。
今年8月に後継者不足により、
惜しまれつつもお店を畳んでしまいましたが
約20年以上、
水つくりを使い続けてくれました。
私が「オヤジさん」と呼んでいるお店の主人は
地域に根ざした和菓子屋を目指した、
まさに昔ながらの職人でした。
和菓子、といえばやはり「あんこ」です。
お店の味を決めるあんこができるまでの行程は
実に奥深く、
その日の気候や豆の質で煮る時間を
変えているなど、とても繊細な作業です。
かかる時間も長く、なんと仕込みは前日から。
まずは、ぬるま湯に1日浸しておき
翌日柔らかくなった状態から煮るのですが
皮と実で水の浸透率が違うので、
皮が良く煮えるまで煮ると、
実が煮えすぎてべちゃつきます。
実のほうが丁度よいところでとめると
皮が煮え切らないので歯に触る、
ザラついたあんこになってしまいます。
ここの見極めも長年の経験が必要となります。
大量生産が必要となるような大きな工場では
薬品や添加物を使って味がそろうように工夫しているというのが実情のようです。
ところが、水つくりの水のぬるま湯に浸して
煮ると、
同じ時間でも皮と実がどちらも
ちょうど良い状態で仕上がるそうなのです。
その上で、煮上がり時間が短くなる、
通常使用する小豆は、
これまで90分掛かっていたのが
50分で煮上がるようになり
皮の厚い大納言小豆は130分掛かっていたのが
90分で煮あがるようになったとのこと。
実際の作業に立ち合った時、
あるタイミングでオヤジさんは
「もう、1秒も要らない!」と
つぶやき、ピタッと火を消しました。
出来上がりを試食させてもらうと実になめらかで
優しい甘さのあんこに仕上がっていました。
「あんこ以外に変わったところはある?」と
尋ねると
「みんなだよ!ぜーんぶ変わったと言うより
元に戻ったんだよ、
俺らが若い時に修業した時に」と言い、
職人歴50年を越えるオヤジさんは
「だけど、今の若い職人に分かるかなー」と
寂しそうな笑みを浮かべました。
次回は、天然酵母のパン屋さんでの
お話を紹介します。